フェーザで解く交流回路
from complex numbers to ideal transformers
複素数の掛け算から始めて、重ねの理・テブナン・ミルマン・補償の定理、交流電力、力率改善、3電圧計法、磁気結合、理想変圧器まで。演習No.1〜No.11に出てくるすべての道具を、天下り無しで一つずつ組み立てます。
この教材の使い方
この教材は、3年生の「電気回路II」演習プリント No.1〜No.11 を解くために必要な知識を、前提ゼロ(高校数学の三角関数と、直流回路のオームの法則くらい)から積み上げるためのものです。
方針は3つだけです。
- 天下りにしない。「\(j\omega L\) と覚えろ」ではなく、なぜ微分が \(j\omega\) 倍になるのかを一度きちんと導出します。導出を一度見ておくと、公式を忘れても自力で復元できます。
- 手を動かす場所を作る。各章の最後に短い練習問題があり、答えは折りたたみで隠してあります。読むだけでは計算力はつきません。
- 演習と直結させる。例題はすべて演習プリントと同じ型(数値だけ変えたもの)です。例題を自力で再現できれば、プリント本体は数値を差し替えるだけで解けます。
0.1演習11回分と章の対応マップ
| 演習 | テーマ | 必要な章 |
|---|---|---|
| No.1 | 素子の基礎(表埋め)/合成インピーダンス | Ch.1, 2, 3, 4 |
| No.2 | 重ねの理 | Ch.4, 5.1 |
| No.3 | 合成インピーダンス/補償の定理 | Ch.4, 5.4 |
| No.4 | テブナンの定理 | Ch.4, 5.2 |
| No.5 | ミルマンの定理 | Ch.4, 5.3 |
| No.6 | 合成インピーダンスと電力の保存 | Ch.4, 6.1〜6.4 |
| No.7 | 複素電力と最大消費電力(可変C) | Ch.6.3, 6.5 |
| No.8 | 力率改善とベクトル図 | Ch.6.2, 6.6 |
| No.9 | 3電圧計法 | Ch.6.7 |
| No.10 | 相互インダクタンスとT形等価回路 | Ch.7 |
| No.11 | 理想変圧器 | Ch.8 |
Ch.1〜Ch.4 は全演習の共通土台です。ここが曖昧なままだと No.1 から詰まります。逆に、Ch.1〜4 が固まっていれば、Ch.5 以降の各定理は「直流で習ったものを複素数に載せ替えるだけ」なので、必要な回の直前に該当節だけ読む、という使い方もできます。
すでに複素数計算に自信があるなら、Ch.1 は最後の練習問題だけ解いて、全問即答できたら飛ばして構いません。
0.2記号の約束
- 虚数単位は \(j\)(\(j^2=-1\))。電気では電流 \(i\) と区別するため \(i\) ではなく \(j\) を使います。
- 文字の上に点が付いたもの(\(\dot{E},\ \dot{I},\ \dot{Z}\))は複素数(フェーザやインピーダンス)を表します。点なしの \(E, I\) はその大きさ(絶対値)です。
- フェーザの大きさは、断りがなければ実効値です(2章)。
- 角度は \(\angle\) 記法で書きます:\(\dot{E}=100\angle 30^\circ\) は「大きさ100、偏角30°」。
- 数値は演習の指示に合わせ、必要なら小数第3位を四捨五入して小数第2位まで示します。
複素数 — 計算の土台
1.1なぜ交流回路に複素数が出てくるのか
先に動機だけ話します。交流回路では、電圧も電流も \(\sin\) 波で振動しています。素直に扱うと、コイルやコンデンサの性質(電圧と電流の関係)が微分・積分で書かれるため、回路方程式が微分方程式になってしまいます。No.2 のような回路を微分方程式で解くのは、正直やっていられません。
ところが、「振動している量を複素数1個で代表させる」という発想(フェーザ法、2章)を使うと、微分方程式がただの連立一次方程式に化けます。微分が「\(j\omega\) を掛ける」という操作に置き換わるからです。つまり複素数は飾りではなく、微分方程式から逃げるための実用的な道具です。だからまず、複素数の計算を「速く・正確に」できるようにします。
1.2虚数単位 j と複素数の形
\(j^2 = -1\) となる数 \(j\) を虚数単位と呼びます。実数 \(a, b\) を使って \[ \dot{Z} = a + jb \] と書ける数を複素数と呼びます。\(a\) を実部、\(b\) を虚部と言い、\(a=\mathrm{Re}\,\dot{Z}\)、\(b=\mathrm{Im}\,\dot{Z}\) と書きます。
数学では \(i\) と書きますが、電気工学では電流の記号 \(i\) と衝突するので \(j\) を使います。中身は同じものです。
\(j\) を何回も掛けると、\(j^1=j,\ j^2=-1,\ j^3=-j,\ j^4=1\) と4周期で回ります。「4回掛けると元に戻る」——この回るという感覚が後で効いてきます(1.6節)。
1.3四則演算と有理化(共役)
足し算・引き算は、実部どうし・虚部どうしをまとめるだけです。
\[ (3+j4)+(2-j6) = 5-j2 \]掛け算は、普通に分配して \(j^2=-1\) で整理します。
\[ (3+j4)(2-j) = 6 - j3 + j8 - j^2 4 = 6+4 + j(8-3) = 10+j5 \]問題は割り算です。分母に \(j\) が残ったままでは大きさも角度も読み取れないので、必ず分母を実数に直します。そのための道具が共役複素数です。
\(\dot{Z}=a+jb\) に対して、虚部の符号だけ反転した \(\bar{Z}=a-jb\) を共役複素数と呼びます。共役を掛けると必ず実数になります: \[ \dot{Z}\,\bar{Z} = (a+jb)(a-jb) = a^2+b^2 \]
例:\(\dfrac{100}{3+j4}\) を計算します。分母の共役 \(3-j4\) を分子分母に掛けて、
\[ \frac{100}{3+j4}=\frac{100(3-j4)}{3^2+4^2}=\frac{300-j400}{25}=12-j16 \]演習の電流計算(\(\dot{I}=\dot{E}/\dot{Z}\))は、ほぼ全部この形です。「分母の共役を分子分母に掛ける」を反射にしてください。
掛け算で \((-j4)(+j3)\) のような項が出たとき、\(-j^2 \cdot 12 = +12\) と符号が反転して実数になるのを忘れるミスが最多です。「\(j \times j\) が出たら \(-1\) に置き換えて実部行きへ」と唱えながら計算しましょう。
1.4複素平面 — 複素数は「矢印」である
複素数 \(a+jb\) は、横軸に実部・縦軸に虚部をとった平面(複素平面)上の点、あるいは原点からその点へ伸びる矢印(ベクトル)として描けます。
矢印として見ると、複素数には「長さ」と「向き」があります。
\(\dot{Z}=a+jb\) の絶対値(大きさ)と偏角(角度): \[ |\dot{Z}| = \sqrt{a^2+b^2}, \qquad \theta = \tan^{-1}\frac{b}{a}\ (\text{象限に注意、1.5節}) \]
交流回路では、この「長さ」が電圧・電流の実効値に、「角度」が位相に対応します。複素数の絶対値と偏角を素早く出せることが、そのまま「フェーザ表示で答えよ」に答える力になります。
1.5極形式と ∠ 記法 — 直交形式との相互変換
複素数の書き方は2通りあります。
- 直交形式: \(a+jb\) —— 足し算・引き算に強い
- 極形式: \(r\angle\theta\)(大きさ \(r\)、角度 \(\theta\)) —— 掛け算・割り算に強い
三角関数で結ぶと \(a = r\cos\theta,\ b = r\sin\theta\) なので、変換は次の通りです。
例:\(100\angle 45^\circ = 100\cos45^\circ + j100\sin45^\circ = 70.71 + j70.71\)。逆に \(8-j6\) は \(\sqrt{64+36}=10\)、\(\tan^{-1}(-6/8)=-36.87^\circ\) なので \(10\angle{-36.87^\circ}\) です。
象限の補正 — 電卓が嘘をつく場所
\(\tan^{-1}\) は \(-90^\circ\)〜\(+90^\circ\) しか返せません。実部が負のとき(第2・第3象限)は、電卓の答えに \(180^\circ\) を足し引きして補正が必要です。
| 実部 a | 虚部 b | 象限 | 偏角 θ の求め方 | 例 |
|---|---|---|---|---|
| + | + | 第1 | \(\tan^{-1}(b/a)\) そのまま | \(2+j2 \to 45^\circ\) |
| − | + | 第2 | \(180^\circ - \tan^{-1}(b/|a|)\) | \(-2+j2 \to 135^\circ\) |
| − | − | 第3 | \(-180^\circ + \tan^{-1}(|b|/|a|)\) | \(-2-j2 \to -135^\circ\) |
| + | − | 第4 | \(-\tan^{-1}(|b|/a)\) | \(2-j2 \to -45^\circ\) |
たとえば \(-2-j4\)。電卓で \(\tan^{-1}(-4/-2)=\tan^{-1}2 = 63.43^\circ\) と出ますが、この複素数は第3象限(左下)にあるので正解は \(63.43^\circ - 180^\circ = -116.57^\circ\)(または \(243.43^\circ\))です。変換の前に必ず頭の中で複素平面に点を打ち、「どっち向きの矢印か」を確認してください。重ねの理(No.2)では負の実部が普通に出てきます。
1.6極形式の掛け算・割り算 — 「回転」として理解する
極形式の真価はここです。証明は加法定理から数行で出ます(やってみる価値があります)が、結果は驚くほどシンプルです。
例:\(10\angle60^\circ \times 2\angle{-15^\circ} = 20\angle45^\circ\)。\(\dfrac{20\angle30^\circ}{4\angle120^\circ} = 5\angle{-90^\circ} = -j5\)。
この見方をすると、\(j\) の正体がわかります。\(j = 1\angle90^\circ\) なので、「\(j\) を掛ける」=「矢印を反時計回りに90°回す」です。\(j^2=-1\) は「90°+90°=180° 回すと反対向き」という意味だったわけです。後で出てくる「コイルでは電圧が電流より90°進む」は、式の上では単に「\(j\) が掛かっている」ことの言い換えです。
足し算・引き算(重ねの理の合算、KCLなど)→ 直交形式で。
掛け算・割り算(\(\dot{I}=\dot{E}/\dot{Z}\) など)→ 極形式だと角度の引き算1回で済み、検算にも最適。
実際の演習では両形式を行ったり来たりします。変換を「作業」と思わず「同じ矢印の別表記」と思えると速くなります。
1.7共役の性質まとめ(6章・7章への布石)
後の複素電力(6.3節)で使うので、共役の性質を並べておきます。\(\dot{Z}=r\angle\theta\) のとき:
- \(\bar{Z} = r\angle(-\theta)\) —— 共役は「角度の符号反転」。実軸に関する鏡映です。
- \(\dot{Z}\bar{Z} = r^2 = |\dot{Z}|^2\) —— 大きさの2乗が出る。
- \(\overline{\dot{Z_1}\dot{Z_2}} = \bar{Z_1}\bar{Z_2}\) —— 積の共役は共役の積。
- \((3+j4)+(2-j6)\) と \((3+j4)(2-j)\) を計算せよ。
- \(\dfrac{1}{4-j3}\) を \(a+jb\) の形にせよ。
- \(\dfrac{10+j5}{3+j4}\) を計算せよ。
- 次を極形式にせよ:\(3+j4\)、\(-3+j4\)、\(8-j6\)、\(-1-j\)。
- \(10\angle60^\circ\times2\angle{-15^\circ}\)、\(\dfrac{20\angle30^\circ}{4\angle120^\circ}\) を計算し、直交形式にもせよ。
解答を見る
1. \(5-j2\)、\(10+j5\)。
2. \(\dfrac{4+j3}{25}=0.16+j0.12\)。
3. \(\dfrac{(10+j5)(3-j4)}{25}=\dfrac{30-j40+j15+20}{25}=\dfrac{50-j25}{25}=2-j\)。
4. \(5\angle53.13^\circ\)、\(5\angle126.87^\circ\)(第2象限に注意)、\(10\angle{-36.87^\circ}\)、\(\sqrt2\angle{-135^\circ}\)(第3象限)。
5. \(20\angle45^\circ = 14.14+j14.14\)、\(5\angle{-90^\circ}=-j5\)。
正弦波交流とフェーザ
2.1正弦波の3要素
交流電圧の瞬時値(時刻 \(t\) での実際の値)は、一般に次の形で書けます。
登場人物は3人です。
- \(E_m\):振幅(最大値)。波の山の高さ。\(E=E_m/\sqrt2\) は実効値(2.2節)。
- \(\omega\):角周波数 [rad/s]。1秒間に位相が何ラジアン進むか。周波数 \(f\) [Hz](1秒間の往復回数)とは \(\omega = 2\pi f\) の関係。1往復 = 1周 = \(2\pi\) rad だからです。
- \(\theta\):初期位相。\(t=0\) の瞬間に波がどこから始まるか。
演習プリントは、問題によって \(\omega\) を直接くれる回(No.2〜5, 9, 11)と、\(f\)[Hz] をくれる回(No.7, 8)が混ざっています。\(f\) が来たら最初に \(\omega=2\pi f\) を計算してメモする癖をつけてください。\(f=50\)Hz なら \(\omega = 100\pi \approx 314.16\) rad/s です。ここを飛ばすとリアクタンスが全部ずれます。
2.2実効値 — なぜ √2 で割るのか
「100Vのコンセント」の100Vは最大値ではなく実効値です。実効値の定義は「同じ抵抗に流したとき、直流と同じ電力を出す値」。抵抗 \(R\) に \(i(t)=I_m\sin\omega t\) を流すと、瞬時電力は \(p=i^2R=I_m^2R\sin^2\omega t\)。\(\sin^2\) の平均値は \(1/2\) なので(半分の時間は山、半分は谷と思えばよい)、平均電力は
\[ P = \frac{I_m^2 R}{2} = \left(\frac{I_m}{\sqrt2}\right)^{\!2} R \]つまり「直流 \(I_m/\sqrt2\) [A] を流したのと同じ」。これが実効値 \(I = I_m/\sqrt2\) の正体です。フェーザの大きさには、この実効値を使うのが電気工学の標準的な約束です(だからフェーザ計算の結果をそのまま \(P=VI\cos\theta\) に入れられます。6章)。
2.3位相差 — 「進み」と「遅れ」
2つの波 \(e_1 = \sqrt2 E_1\sin(\omega t + \theta_1)\)、\(e_2 = \sqrt2 E_2\sin(\omega t + \theta_2)\) があるとき、\(\theta_1 > \theta_2\) なら「\(e_1\) は \(e_2\) より位相が進んでいる」と言います。グラフで見ると、\(e_1\) の山が時間的に先に来ます(位相が進む=先にピークを迎える)。逆なら「遅れている」。
交流回路の面白さと厄介さは、素子によってこの位相差が生まれることに集中しています。3章で見る通り、コイルは電流を90°遅らせ、コンデンサは90°進ませます。
2.4フェーザ — 回転するベクトルの「静止画」
ここが本教材で一番大事な節です。ゆっくりいきます。
三角関数の波 \(\sqrt2E\sin(\omega t + \theta)\) を、複素平面で考え直します。長さ \(\sqrt2E\) の矢印が、角度 \(\omega t + \theta\) の向きを指しながら反時計回りに回転しているとしましょう。この矢印の縦方向(虚軸方向)への影が、ちょうど \(\sqrt2E\sin(\omega t+\theta)\) になります。つまり:
正弦波 = 回転する矢印の影。波形を追いかける代わりに、回転する矢印を追いかけてもよい。
下のデモで確かめてください。左が回転する矢印、右がその影(=波形)です。
さて、回路の中の電圧・電流は全部同じ \(\omega\) で回っています(電源が1種類の周波数だから)。全員が同じ速さで回るなら、回転そのものは情報を持ちません。違いは「長さ」と「スタート角度」だけ。そこで、回転を止めて \(t=0\) の静止画だけを記録することにします。それがフェーザです。
正弦波 \(e(t) = \sqrt2\,E\sin(\omega t + \theta)\) に対して、複素数 \[ \dot{E} = E\angle\theta = E\cos\theta + jE\sin\theta \] を \(e(t)\) のフェーザ(フェーザ表示)と呼びます。大きさは実効値 \(E\)、角度は初期位相 \(\theta\)。
例:\(e(t) = 141.4\sin(314t + \pi/6)\) [V] なら、実効値は \(141.4/\sqrt2 = 100\) V、初期位相は \(30^\circ\) なので、フェーザは \(\dot{E} = 100\angle30^\circ\) です。逆変換も同様に一瞬でできます。「演習でフェーザ表示値を求めよ」と言われたら、\(r\angle\theta\) の形(または \(a+jb\))で答えればよい、ということです。
2.5微分が jω 倍になる — フェーザ法の心臓部
フェーザ法が微分方程式を殺せる理由を確認します。\(e(t)=\sqrt2E\sin(\omega t+\theta)\) を時間で微分すると、
\[ \frac{de}{dt} = \omega\cdot\sqrt2E\cos(\omega t+\theta) = \omega\cdot\sqrt2E\sin(\omega t+\theta+90^\circ) \]結果を観察してください。微分してできた波は、(1) 大きさが \(\omega\) 倍、(2) 位相が \(90^\circ\) 進んだ、同じ周波数の正弦波です。フェーザの言葉に訳すと「大きさを \(\omega\) 倍して \(90^\circ\) 回す」。そして1.6節で見た通り、「\(90^\circ\) 回す」= 「\(j\) を掛ける」でした。つまり:
微分という解析の操作が、複素数の掛け算という代数の操作に化けました。これで、コイル(\(v=L\,di/dt\))もコンデンサ(\(i=C\,dv/dt\))も、ただの「複素数の比例定数」として扱えます。それが3章のインピーダンスです。
2.6フェーザで書き直すキルヒホッフ則
直流回路で使ったキルヒホッフの2法則は、フェーザでもそのまま成立します(足し算は波の重ね合わせであり、フェーザの足し算と1対1に対応するため)。
- 電流則(KCL):節点に流れ込むフェーザ電流の総和 = 流れ出す総和。例:No.2 の節点Aでは \(\dot{I_1}+\dot{I_2}=\dot{I_3}\)。
- 電圧則(KVL):閉路一周のフェーザ電圧の総和 = 0。
ただし複素数のまま足すのが鉄則です。大きさだけ足してはいけません(\(|\dot{I_1}|+|\dot{I_2}| \ne |\dot{I_1}+\dot{I_2}|\)。矢印は向きが違えば打ち消し合うからです)。この事実は後で3電圧計法(6.7節)の主役になります。
2.7単位の接頭辞 — 地味だが失点源ナンバーワン
演習の数値は mH(ミリヘンリー)や μF(マイクロファラド)で与えられます。計算はすべて基本単位(H, F)に直してから行います。
| 接頭辞 | 読み | 倍率 | 換算例 |
|---|---|---|---|
| k | キロ | \(10^{3}\) | \(2\,\mathrm{k\Omega} = 2000\,\Omega\) |
| m | ミリ | \(10^{-3}\) | \(100\,\mathrm{mH} = 0.1\,\mathrm{H}\) |
| μ | マイクロ | \(10^{-6}\) | \(25\,\mathrm{\mu F} = 25\times10^{-6}\,\mathrm{F}\) |
| n | ナノ | \(10^{-9}\) | \(10\,\mathrm{nF} = 10^{-8}\,\mathrm{F}\) |
換算ミスの実害を一度体験しておきましょう。\(\omega=800\) rad/s、\(C=25\) μF のとき:
\[ \frac{1}{\omega C} = \frac{1}{800 \times 25\times10^{-6}} = \frac{1}{0.02} = 50\ \Omega \]ここで μ を忘れて \(C=25\) とすると答えは \(5\times10^{-5}\,\Omega\)。桁が6つ飛びます。指数表記(\(25\times10^{-6}\))のまま計算し、最後に電卓に入れるのが安全です。
- \(e(t)=141.4\sin(314t+\pi/6)\) [V] の実効値・周波数 \(f\)・フェーザ表示を求めよ。
- \(f=60\) Hz のときの \(\omega\) を求めよ。
- \(\dot{I}=5\angle{-45^\circ}\) [A]、\(\omega=1000\) rad/s のときの瞬時値 \(i(t)\) を書け。
- \(\omega=800\) rad/s、\(L=100\) mH のとき \(\omega L\) を求めよ。\(C=25\) μF のとき \(1/(\omega C)\) を求めよ。
解答を見る
1. 実効値 \(141.4/\sqrt2 = 100\) V。\(\omega=314\) rad/s より \(f = \omega/2\pi = 50\) Hz。\(\pi/6 = 30^\circ\) なのでフェーザは \(100\angle30^\circ\) V。
2. \(\omega = 2\pi\times60 = 376.99 \approx 377\) rad/s。
3. \(i(t) = 5\sqrt2\sin(1000t - 45^\circ) = 7.07\sin(1000t - \pi/4)\) [A]。
4. \(\omega L = 800\times0.1 = 80\ \Omega\)。\(1/(\omega C) = 1/(800\times25\times10^{-6}) = 50\ \Omega\)。(この2つの数値は No.2 でそのまま出会います。)
R・L・C とインピーダンス
3.1抵抗 R — 基準となる素子
抵抗は直流と同じで、瞬時値でもオームの法則が成り立ちます:\(v = Ri\)。電流 \(i=\sqrt2I\sin\omega t\) を流すと \(v = \sqrt2RI\sin\omega t\)。電圧と電流は同じタイミングで振動します(同相)。フェーザで書くと:
\[ \dot{V} = R\,\dot{I} \]比例定数は実数 \(R\)。角度を変えないので位相差は 0° です。
3.2コイル L — 電流の変化を嫌う素子
コイル(インダクタ)の素性は「電流が変化すると、それを妨げる向きに電圧を生む」(電磁誘導)。式では
\[ v = L\frac{di}{dt} \]\(L\) はインダクタンス [H](ヘンリー)で、コイルの「電流変化への抵抗感」の強さです。ここで2.5節の変換 \(d/dt \to j\omega\) を適用すると、フェーザでは
読み取れることは2つです。
- 大きさ:電圧は電流の \(\omega L\) 倍。この \(\omega L\) がコイルの「交流に対する抵抗の強さ」で、周波数が高いほど大きい(速い変化ほど強く妨げる)。
- 角度:\(j\) が掛かる = 電圧は電流より 90° 進む。裏返すと「コイルでは電流が電圧より 90° 遅れる」。直感的には、コイルが電流の立ち上がりを妨げるので、電流は電圧に対してワンテンポ遅れてついてくる、と覚えられます。
3.3コンデンサ C — 電圧の変化を嫌う素子
コンデンサは電荷をためる素子で、\(q = Cv\)。電流は電荷の時間変化なので
\[ i = \frac{dq}{dt} = C\frac{dv}{dt} \]\(C\) は静電容量(キャパシタンス) [F](ファラド)。フェーザに直すと \(\dot{I} = j\omega C\dot{V}\)、つまり
途中の変形 \(\dfrac{1}{j} = \dfrac{j}{j^2} = -j\) は頻出なので、その場で出せるようにしてください。読み取りはコイルの正反対です。
- 大きさ:電圧は電流の \(\dfrac{1}{\omega C}\) 倍。周波数が高いほど「抵抗感」は小さくなる(速い変化ならコンデンサは楽に電荷を出し入れできる)。
- 角度:\(-j\) が掛かる = 電圧は電流より 90° 遅れる。つまり「コンデンサでは電流が電圧より 90° 進む」。まず電流が流れ込んで電荷がたまり、その結果として電圧が後から立ち上がる、という順序を思い浮かべると自然です。
3.4インピーダンスとリアクタンス
3素子とも、フェーザでは \(\dot{V} = \dot{Z}\dot{I}\) という「複素数版オームの法則」の形に収まりました。この比例定数をまとめて呼ぶ名前を与えます。
\(\dot{Z} = \dot{V}/\dot{I}\) をインピーダンスと呼ぶ。単位は Ω。一般に複素数で、 \[ \dot{Z} = R + jX \] と書いたとき、実部 \(R\) を抵抗分、虚部 \(X\) をリアクタンスと呼ぶ。リアクタンスの単位も Ω。
- コイルのリアクタンス(誘導性リアクタンス):\(X_L = \omega L\)。インピーダンスは \(\dot{Z}=jX_L\)。
- コンデンサのリアクタンス(容量性リアクタンス):\(X_C = \dfrac{1}{\omega C}\)。インピーダンスは \(\dot{Z}=-jX_C\)。
「リアクタンス \(X_C\)」は正の実数 \(1/(\omega C)\) として定義し、マイナス符号はインピーダンスに書くとき(\(-jX_C\))に付ける流儀が標準です(演習プリントもこの流儀)。\(X_C\) 自体に負号を入れて二重にマイナスを付ける事故が多発します。どちらの流儀か常に意識してください。
3.53素子 完全対照表(No.1 の知識はこれで全部)
ここまでの内容を1枚にまとめます。丸暗記ではなく、各行が3.1〜3.4節のどこから来たか説明できることを目指してください。最終行だけ補足すると、素子に \(\dot{E}=E\angle0^\circ\) を加えたときの電流は \(\dot{I}=\dot{E}/\dot{Z}\) なので、角度は「\(0^\circ - (\dot{Z}\)の角度\()\)」になります(1.6節の割り算則)。
| 抵抗 | コイル | コンデンサ | |
|---|---|---|---|
| 電気用図記号(JIS) | |||
| 性能を表す語句 | 抵抗 (レジスタンス) | インダクタンス | 静電容量 (キャパシタンス) |
| 性能を表す記号 | \(R\) | \(L\) | \(C\) |
| 性能の単位 | Ω(オーム) | H(ヘンリー) | F(ファラド) |
| リアクタンス | — | \(X_L=\omega L\) | \(X_C=\dfrac{1}{\omega C}\) |
| リアクタンスの単位 | — | Ω | Ω |
| インピーダンス(複素数表示) | \(R\) | \(j\omega L = jX_L\) | \(\dfrac{1}{j\omega C} = -jX_C\) |
| インピーダンス(フェーザ表示) | \(R\angle0^\circ\) | \(\omega L\angle90^\circ\) | \(\dfrac{1}{\omega C}\angle{-90^\circ}\) |
| インピーダンスの単位 | Ω | Ω | Ω |
| \(\dot{E}=E\angle0^\circ\) を加えた時の電流 | \(\dfrac{E}{R}\angle0^\circ\) | \(\dfrac{E}{\omega L}\angle{-90^\circ}\) | \(\omega CE\angle{+90^\circ}\) |
最終行の導出を1つだけ確認しておきます(コンデンサ):
\[ \dot{I} = \frac{\dot{E}}{\dot{Z}} = \frac{E\angle0^\circ}{\dfrac{1}{\omega C}\angle{-90^\circ}} = \omega C E\,\angle(0^\circ-(-90^\circ)) = \omega CE\angle{+90^\circ} \]「電流が90°進む」という3.3節の言葉と、計算結果がちゃんと一致しています。言葉・数式・図の3つが常に同じことを言っている——この確認を習慣にすると、交流回路は怖くなくなります。
- \(\omega=2000\) rad/s のとき、\(L=50\) mH のインピーダンスと、\(C=5\) μF のインピーダンスを複素数表示で求めよ。
- 上の2素子それぞれに \(\dot{E}=200\angle0^\circ\) V を加えたときの電流をフェーザ表示で求めよ。
- 「コイルでは電流が電圧より90°遅れる」を、\(v=L\,di/dt\) から言葉で説明せよ(自分の言葉でよい)。
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1. \(X_L = 2000\times0.05=100\) → \(\dot{Z_L}=j100\ \Omega\)。\(X_C = 1/(2000\times5\times10^{-6}) = 100\) → \(\dot{Z_C}=-j100\ \Omega\)。
2. コイル:\(\dot{I}=200/ (100\angle90^\circ) = 2\angle{-90^\circ}\) A。コンデンサ:\(\dot{I}=200/(100\angle{-90^\circ}) = 2\angle{+90^\circ}\) A。
3. 例:コイルは電流の変化を妨げる電圧を生む。電圧が先に加わっても電流はすぐに追従できず、立ち上がりが遅れる。正弦波ではこの遅れがちょうど1/4周期(90°)になる。
回路計算の実戦技術
4.1直列と並列 — 公式は直流と同じ形
インピーダンスは「複素数版の抵抗」なので、合成の公式は直流の抵抗とまったく同じ形です。中身が複素数になっただけです。
直列の例:\(R=30\,\Omega\) とコイル \(X_L=40\,\Omega\) の直列なら \(\dot{Z} = 30+j40 = 50\angle53.13^\circ\ \Omega\)。足すだけです。並列は割り算が入るので、1章の有理化がそのまま主戦場になります。
4.2分圧と分流
これも直流と同じ形です。導出は「直列なら電流共通」「並列なら電圧共通」から1行です。
分流の分子は相手側のインピーダンス(\(\dot{I_1}\) を求めるなら \(\dot{Z_2}\))です。「流れやすい方(小さい \(\dot{Z}\))に多く流れる」ことを思い出せば、分子が相手側でないと辻褄が合わないことに気づけます。重ねの理(5.1節)の例題で多用します。
4.3例題で流れをつかむ
抵抗とコイルの並列→ 演習No.1(2)① 対応
\(R = 6\,\Omega\) とコイル \(jX_L = j8\,\Omega\) の並列回路の合成インピーダンスを、複素数表示とフェーザ表示の両方で求めよ。
和分の積に入れます。
\[ \dot{Z} = \frac{6 \times j8}{6+j8} = \frac{j48}{6+j8} \]分母の共役 \(6-j8\) を分子分母に掛けて有理化:
\[ \dot{Z} = \frac{j48(6-j8)}{6^2+8^2} = \frac{j288 + 384}{100} = 3.84 + j2.88\ \Omega \](\(j\times(-j8)=+8\) の符号反転に注意。)フェーザ表示へ:大きさ \(\sqrt{3.84^2+2.88^2} = \sqrt{23.04} = 4.8\)、角度 \(\tan^{-1}(2.88/3.84) = \tan^{-1}0.75 = 36.87^\circ\)(第1象限なのでそのまま)。
\[ \dot{Z} = 4.8\angle36.87^\circ\ \Omega \]検算:並列合成の大きさは、各素子より小さくなるはず(4.8 < 6, 8)。OK。角度は 0°(R)と 90°(L)の間。OK。この2つのサニティチェックは毎回やる価値があります。
コイル + (抵抗∥コンデンサ)→ 演習No.1(2)② 対応
コイル \(j2\,\Omega\) に、抵抗 \(3\,\Omega\) とコンデンサ \(-j6\,\Omega\) の並列部が直列接続されている。合成インピーダンスを両表示で求めよ。
内側(並列部)から外側へ、が鉄則です。まず並列部:
\[ \dot{Z_p} = \frac{3\times(-j6)}{3-j6} = \frac{-j18}{3-j6} = \frac{-j18(3+j6)}{3^2+6^2} = \frac{-j54+108}{45} = 2.4 - j1.2\ \Omega \]次に直列のコイルを足すだけ:
\[ \dot{Z} = j2 + (2.4-j1.2) = 2.4 + j0.8\ \Omega \]フェーザ表示:\(\sqrt{2.4^2+0.8^2} = \sqrt{6.4} = 2.53\)、\(\tan^{-1}(0.8/2.4)=18.43^\circ\)。
\[ \dot{Z} = 2.53\angle18.43^\circ\ \Omega \]虚部が正なので、この回路は全体として「コイル寄り(誘導性)」だと読み取れます。並列部の \(-j1.2\)(容量性)をコイルの \(+j2\) が上回った、という物理の物語が式に残っています。
4.4よくあるミス総点検
- 単位換算忘れ:mH・μF を基本単位に直してから \(\omega L\)、\(1/(\omega C)\)(2.7節)。
- \(f\) と \(\omega\) の取り違え:Hz で来たら \(\omega = 2\pi f\) が先(2.1節)。
- \(1/j = -j\) の処理:コンデンサの符号ミスはここから生まれる(3.3節)。
- 象限の確認不足:実部が負なら電卓の \(\tan^{-1}\) に180°補正(1.5節)。
- 大きさだけの足し算:\(|\dot{Z_1}+\dot{Z_2}| \ne |\dot{Z_1}|+|\dot{Z_2}|\)。複素数のまま足す(2.6節)。
- \(R=30\,\Omega\) とコイル \(X_L=40\,\Omega\) の直列インピーダンスをフェーザ表示で求めよ。
- \(50\,\Omega\) の抵抗と \(-j50\,\Omega\) のコンデンサの並列インピーダンスを両表示で求めよ。
- \(\dot{V}=100\angle0^\circ\) V を \(\dot{Z_1}=j30\,\Omega\)、\(\dot{Z_2}=40\,\Omega\) の直列に加えた。\(\dot{Z_2}\) の端子電圧を求めよ。
- 合計電流 \(\dot{I}=10\angle0^\circ\) A が \(\dot{Z_1}=j10\,\Omega\) と \(\dot{Z_2}=10\,\Omega\) の並列に流れ込む。\(\dot{Z_1}\) 側の電流を求めよ。
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1. \(30+j40 = 50\angle53.13^\circ\ \Omega\)。
2. \(\dfrac{50(-j50)}{50-j50} = \dfrac{-j2500(50+j50)}{5000} = 25-j25 = 35.36\angle{-45^\circ}\ \Omega\)。
3. 分圧:\(\dot{V_2} = 100\cdot\dfrac{40}{40+j30} = \dfrac{4000(40-j30)}{2500} = 64-j48 = 80\angle{-36.87^\circ}\) V。
4. 分流(分子は相手側):\(\dot{I_1} = 10\cdot\dfrac{10}{10+j10} = \dfrac{100(10-j10)}{200} = 5-j5 = 7.07\angle{-45^\circ}\) A。
回路の定理 — 4つの武器
5.0準備:電源を「殺す」とはどういうことか
この章の定理は、どれも「一部の電源を取り除いた回路」を考えます。取り除き方には正しい作法があります。
電圧源を殺す(取り除く)= 短絡(ただの導線)に置き換える。電圧源の性質は「両端の電圧を \(\dot{E}\) に保つ」こと。\(\dot{E}=0\) にした電圧源は「両端の電圧を 0 に保つ素子」、すなわち導線そのものだからです。(参考:電流源なら \(\dot{J}=0\) は「電流を流さない素子」= 開放です。今回の演習はすべて電圧源です。)
また、キルヒホッフ則(2.6節)はこの章の共通言語です。「節点で電流が保存する(KCL)」「一周すると電圧が戻る(KVL)」——定理はすべて、この2つと素子の線形性から導かれる時短テクニックにすぎません。だから、定理の結果はいつでも地道な連立方程式で検算できます。
5.1重ねの理 — 電源を1つずつ相手にする
複数の電源を含む線形回路の任意の電流(電圧)は、「各電源を1つだけ残し、他の電源をすべて殺した回路」での電流(電圧)をすべて足し合わせたものに等しい。
なぜ成り立つか:回路方程式(KCL・KVL・\(\dot{V}=\dot{Z}\dot{I}\))がすべて一次式だからです。一次式の解は入力(電源)について線形なので、「入力を分けて解いて足す」ことが許されます。逆に言うと、ダイオードのような非線形素子が入ると使えません。
- 電流の向き(矢印)を回路図に書き込み、固定する。以後すべての計算をこの向き基準で行う。
- 電源を1つ残して他を短絡した回路を作り、直並列+分流で各電流を求める。
- これを電源の数だけ繰り返す。
- 同じ枝の電流を複素数のまま足す。矢印と逆向きに流れる成分は負号付きで足すことになる(自動的にそうなる)。
2電源回路を重ねの理で解く→ 演習No.2 対応
図の回路で、\(\omega = 1000\) rad/s、\(L=20\) mH、\(R=10\,\Omega\)、\(C=100\) μF、\(\dot{E_1} = 100\angle0^\circ\) V、\(\dot{E_2}=100\angle90^\circ\) V とする。図の向きに定めた \(\dot{I_1},\dot{I_2},\dot{I_3}\) を求めよ。
準備:各素子のインピーダンスを出します。\(\dot{Z_1} = j\omega L = j(1000)(0.02) = j20\)、\(\dot{Z_2}=R=10\)、\(\dot{Z_3} = -j\dfrac{1}{\omega C} = -j\dfrac{1}{1000\times100\times10^{-6}} = -j10\)(単位はΩ)。
Step 1:\(\dot{E_2}\) を殺す(短絡)。電源は \(\dot{E_1}\) だけ。回路は「\(\dot{Z_1}\) の先に \(\dot{Z_2}\) と \(\dot{Z_3}\) の並列」です。
\[ \dot{Z_2}/\!/\dot{Z_3} = \frac{10\times(-j10)}{10-j10} = \frac{-j100(10+j10)}{200} = 5-j5 \] \[ \dot{I_1}' = \frac{\dot{E_1}}{\dot{Z_1} + 5-j5} = \frac{100}{5+j15} = \frac{100(5-j15)}{250} = 2-j6 \]分流(分子は相手側)で \(\dot{I_3}'\) を出します:
\[ \dot{I_3}' = \dot{I_1}'\cdot\frac{\dot{Z_2}}{\dot{Z_2}+\dot{Z_3}} = (2-j6)\cdot\frac{10}{10-j10} = \frac{(20-j60)(10+j10)}{200} = \frac{800-j400}{200} = 4-j2 \]\(\dot{Z_2}\) を通ってAから右へ抜ける電流は \(\dot{I_1}'\cdot\frac{\dot{Z_3}}{\dot{Z_2}+\dot{Z_3}} = -2-j4\)(同様に計算)。ここで注意——\(\dot{I_2}\) の定義は「右からAへ」なので、符号を反転して \(\dot{I_2}' = 2+j4\)。検算:\(\dot{I_1}'+\dot{I_2}' = (2-j6)+(2+j4) = 4-j2 = \dot{I_3}'\)。KCLが成立、OK。
Step 2:\(\dot{E_1}\) を殺す(短絡)。今度は \(\dot{E_2}\) から見て「\(\dot{Z_2}\) の先に \(\dot{Z_1}\) と \(\dot{Z_3}\) の並列」。
\[ \dot{Z_1}/\!/\dot{Z_3} = \frac{j20\times(-j10)}{j20-j10} = \frac{200}{j10} = -j20 \] \[ \dot{I_2}'' = \frac{\dot{E_2}}{\dot{Z_2} + (-j20)} = \frac{j100}{10-j20} = \frac{j100(10+j20)}{500} = -4+j2 \]分流:\(\dot{I_3}'' = \dot{I_2}''\cdot\dfrac{\dot{Z_1}}{\dot{Z_1}+\dot{Z_3}} = (-4+j2)\cdot\dfrac{j20}{j10} = (-4+j2)\times2 = -8+j4\)。AからZ₁側へ抜ける電流は \(\dot{I_2}''\cdot\dfrac{\dot{Z_3}}{\dot{Z_1}+\dot{Z_3}} = (-4+j2)(-1) = 4-j2\) で、\(\dot{I_1}\) の定義(左からAへ)とは逆向きだから \(\dot{I_1}'' = -4+j2\)。検算:\((-4+j2)+(-4+j2) = -8+j4 = \dot{I_3}''\)。OK。
Step 3:足す。
\[ \dot{I_1} = (2-j6)+(-4+j2) = -2-j4 = 4.47\angle{-116.57^\circ}\ \mathrm{A} \] \[ \dot{I_2} = (2+j4)+(-4+j2) = -2+j6 = 6.32\angle{108.43^\circ}\ \mathrm{A} \] \[ \dot{I_3} = (4-j2)+(-8+j4) = -4+j2 = 4.47\angle{153.43^\circ}\ \mathrm{A} \]フェーザ変換では象限に注意してください。たとえば \(-2-j4\) は第3象限なので \(\tan^{-1}(4/2)=63.43^\circ\) から \(-180^\circ+63.43^\circ = -116.57^\circ\)(1.5節の表の通り)。最後にもう一度 KCL:\(\dot{I_1}+\dot{I_2} = -4+j2 = \dot{I_3}\)。すべて整合しました。
重ねの理の事故は9割が向き(符号)です。対策は「最初に矢印を書いて固定」「分流で出した電流が定義の矢印と逆なら、その場でマイナスを付ける」「各ステップと最後にKCL検算」。この3点セットで事故率は激減します。
5.2テブナンの定理 — 回路を「1電源+1インピーダンス」に畳む
「この2端子につないだ負荷に流れる電流だけ知りたい」という場面(まさに No.4)では、回路全体を毎回解くのは無駄です。テブナンの定理は、負荷から見た残り全部を圧縮してくれます。
線形回路の端子 a–b から負荷 \(\dot{Z}\) を見たとき、負荷に流れる電流は \[ \dot{I} = \frac{\dot{E_{ab}}}{\dot{Z_{ab}} + \dot{Z}} \] ここで \(\dot{E_{ab}}\) は負荷を外したときの a–b 間の開放電圧、\(\dot{Z_{ab}}\) はすべての電源を殺して a–b から回路側を見た合成インピーダンス。
つまり、どんなに複雑な回路も、端子から見れば「起電力 \(\dot{E_{ab}}\)、内部インピーダンス \(\dot{Z_{ab}}\) の1つの電池」と等価だ、という主張です。手順は毎回同じ4手です。
- 負荷 \(\dot{Z}\) を外す(開放する)。
- 開放電圧 \(\dot{E_{ab}}\) を求める。負荷が居ないぶん回路は単純(たいてい分圧1発)。
- 電源を殺して \(\dot{Z_{ab}}\) を求める(たいてい直並列1発)。
- \(\dot{I} = \dot{E_{ab}}/(\dot{Z_{ab}}+\dot{Z})\)。
テブナンの定理で負荷電流を求める→ 演習No.4 対応
\(\dot{E}=100\angle0^\circ\) V、\(R=100\,\Omega\)、コイル \(jX_L = j200\,\Omega\)、コンデンサ \(-jX_C=-j100\,\Omega\)。電源から R、L を直列に通って端子 a に至り、a–b 間にコンデンサ C が入っている。端子 a–b に負荷 \(\dot{Z}=50\,\Omega\) をつなぐとき、負荷電流 \(\dot{I}\) を求めよ。
Step 1–2:開放電圧。\(\dot{Z}\) を外すと、電流は E → R → L → C の一本道。\(\dot{E_{ab}}\) は C の分圧です。
\[ \dot{E_{ab}} = \dot{E}\cdot\frac{-j100}{100+j200-j100} = \frac{100(-j100)}{100+j100} = \frac{-j10^4(100-j100)}{2\times10^4} = -50-j50 \] \[ = 70.71\angle{-135^\circ}\ \mathrm{V} \quad(\text{第3象限に注意}) \]Step 3:内部インピーダンス。\(\dot{E}\) を短絡すると、a–b から見て「C」と「R+L」の並列になります。
\[ \dot{Z_{ab}} = \frac{(-j100)(100+j200)}{(-j100)+(100+j200)} = \frac{20000-j10000}{100+j100} = \frac{(20000-j10000)(100-j100)}{2\times10^4} = 50-j150\ \Omega \]Step 4:電流。
\[ \dot{I} = \frac{\dot{E_{ab}}}{\dot{Z_{ab}}+\dot{Z}} = \frac{-50-j50}{100-j150} = \frac{(-50-j50)(100+j150)}{100^2+150^2} = \frac{2500-j12500}{32500} = 0.077-j0.385 \] \[ |\dot{I}| = 0.39\ \mathrm{A},\qquad \theta = \tan^{-1}\!\frac{-0.385}{0.077} = -78.69^\circ \quad\Rightarrow\quad \dot{I} = 0.39\angle{-78.69^\circ}\ \mathrm{A} \]極形式での検算:\(|\dot{E_{ab}}|=70.71\)、\(|\dot{Z_{ab}}+\dot{Z}| = |100-j150| = 180.28\)、比は \(0.392\)。角度は \(-135^\circ - (-56.31^\circ) = -78.69^\circ\)。一致します。割り算は極形式で検算する——1.6節の教えです。
5.3ミルマンの定理 — 並列回路専用の飛び道具
「電源つきの枝が何本も同じ2つの節点間に並列している」という形(No.5 がまさにこれ)には、専用の必殺技があります。導出が簡単なので、先に導出から見せます。上側の節点の電位を \(\dot{V}\)(下側基準)とすると、KCLより各枝の電流の総和は0:
\[ \frac{\dot{V}-\dot{E_1}}{\dot{Z_1}} + \frac{\dot{V}-\dot{E_2}}{\dot{Z_2}} + \cdots = 0 \]これを \(\dot{V}\) について解くだけです(電源のない枝は \(\dot{E}=0\) とすればよい):
分子は「各枝の短絡電流」、分母は「各枝のアドミタンス(\(1/\dot{Z}\))の和」。並列部の端子電圧が一撃で出る。
ミルマンの定理で端子電圧と負荷電流→ 演習No.5 対応
節点 a–b 間に3本の枝が並列:枝1 = 電源 \(\dot{E}=100\angle0^\circ\) V と \(\dot{Z_1}=10+j20\,\Omega\) の直列、枝2 = \(\dot{Z_2}=-j10\,\Omega\)、枝3 = 負荷 \(\dot{Z_3}=10\,\Omega\)。a–b 間電圧 \(\dot{V}\) と負荷電流 \(\dot{I_3}\) を求めよ。
材料を1つずつ:
\[ \frac{\dot{E}}{\dot{Z_1}} = \frac{100}{10+j20} = \frac{100(10-j20)}{500} = 2-j4 \] \[ \frac{1}{\dot{Z_1}} = 0.02-j0.04,\qquad \frac{1}{\dot{Z_2}} = \frac{1}{-j10} = j0.1,\qquad \frac{1}{\dot{Z_3}} = 0.1 \]分母(アドミタンスの和):\(0.02-j0.04 + j0.1 + 0.1 = 0.12+j0.06\)。よって
\[ \dot{V} = \frac{2-j4}{0.12+j0.06} = \frac{4.47\angle{-63.43^\circ}}{0.134\angle{26.57^\circ}} = 33.33\angle{-90^\circ} = -j33.33\ \mathrm{V} \](ここは極形式の割り算が気持ちいい場面です。角度:\(-63.43-26.57 = -90^\circ\)ちょうど。)負荷電流は:
\[ \dot{I_3} = \frac{\dot{V}}{\dot{Z_3}} = \frac{-j33.33}{10} = 3.33\angle{-90^\circ}\ \mathrm{A} \]検算:この回路は「\(\dot{E}\) に \(\dot{Z_1}\) と \((\dot{Z_2}/\!/\dot{Z_3})\) が直列」とも見られます。\(\dot{Z_2}/\!/\dot{Z_3} = 5-j5\)、全体 \(15+j15\)、\(\dot{I_1} = 100/(15+j15) = 3.33-j3.33\)、\(\dot{V} = \dot{I_1}(5-j5) = -j33.33\)。一致。定理は近道であって、いつでも普通の方法で答え合わせできます。
5.4補償の定理 — 「変更後」を全部解き直さないために
回路の一部のインピーダンスが変わったとき(素子の追加・部品の値変更)、回路全体を解き直すのは芸がありません。補償の定理は「変化ぶんだけ」を独立に計算させてくれます。No.3 の後半はこの定理の練習です。
回路のある枝(元の電流 \(\dot{I}\))のインピーダンスを \(\dot{Z} \to \dot{Z}+\Delta\dot{Z}\) に変えたとき、回路各部の電流の変化分は、次の回路に流れる電流に等しい:
「すべての電源を殺し、変更後の回路の当該枝に、元の電流と逆向きに起電力 \(\Delta\dot{E} = \Delta\dot{Z}\cdot\dot{I}\) を挿入した回路」
すなわち、新しい電流 = 元の電流 + この「補償電源だけの回路」の電流。
直感:枝に \(\Delta\dot{Z}\) を追加すると、そこに余計な電圧降下 \(\Delta\dot{Z}\dot{I}\) が生まれます。この余計な降下は、「その場に逆向きの電圧源を差し込んだ」のと同じ効果を回路に与える——これが定理の中身です。まず一番単純な直列回路で確かめます。
直列回路で定理の動作確認
\(\dot{E}=100\angle0^\circ\) V、\(\dot{Z}=10+j10\,\Omega\) の直列回路に、さらに \(\Delta\dot{Z}=10\,\Omega\) を直列追加する。新しい電流を、(i) 直接計算、(ii) 補償の定理、の両方で求めて一致を確認せよ。
元の電流:\(\dot{I} = \dfrac{100}{10+j10} = \dfrac{100(10-j10)}{200} = 5-j5\) A。
(i) 直接:\(\dot{I'} = \dfrac{100}{20+j10} = \dfrac{100(20-j10)}{500} = 4-j2\) A。
(ii) 補償の定理:補償起電力は \(\Delta\dot{E} = \Delta\dot{Z}\cdot\dot{I} = 10(5-j5) = 50-j50\) V。電源を殺した変更後の回路(\(\dot{E}\) 短絡、インピーダンスは \(20+j10\))に、元の電流と逆向きにこれを入れると、変化分は
\[ \Delta\dot{I} = -\frac{\Delta\dot{E}}{\dot{Z}+\Delta\dot{Z}} = -\frac{50-j50}{20+j10} = -\frac{(50-j50)(20-j10)}{500} = -\frac{500-j1500}{500} = -1+j3\ \mathrm{A} \] \[ \dot{I'} = \dot{I} + \Delta\dot{I} = (5-j5)+(-1+j3) = 4-j2\ \mathrm{A} \quad\text{一致。} \]枝の追加を補償の定理で処理する→ 演習No.3 対応
\(\dot{E}=100\angle0^\circ\) V の電源に、コイル \(j5\,\Omega\) が直列。その先の節点から、コンデンサ \(-j10\,\Omega\) の枝と、抵抗 \(10\,\Omega\) の枝が並列に下りている。抵抗枝の電流を \(\dot{I_2}\) とする。いま抵抗枝に \(\dot{Z'}=10\,\Omega\) を直列挿入したときの新しい電流 \(\dot{I_2'}\) を、(i) 直接、(ii) 補償の定理で求めよ。
元の回路:並列部 \(= \dfrac{(-j10)(10)}{10-j10} = 5-j5\)。全体 \(= j5+5-j5 = 5\)(きれいに実数)。よって全電流 \(\dot{I_1} = 100/5 = 20\) A。分流で抵抗枝:
\[ \dot{I_2} = 20\cdot\frac{-j10}{10-j10} = \frac{-j200(10+j10)}{200} = 10-j10\ \mathrm{A} \](i) 直接:抵抗枝が \(10+10=20\,\Omega\) になるので、並列部 \(= \dfrac{(-j10)(20)}{20-j10} = \dfrac{-j200(20+j10)}{500} = 4-j8\)。全体 \(= j5+4-j8 = 4-j3\)。\(\dot{I_1'} = \dfrac{100}{4-j3} = \dfrac{100(4+j3)}{25} = 16+j12\)。分流:
\[ \dot{I_2'} = (16+j12)\cdot\frac{-j10}{20-j10} = \frac{(120-j160)(20+j10)}{500} = \frac{4000-j2000}{500} = 8-j4\ \mathrm{A} \](ii) 補償の定理:補償起電力 \(\dot{E_c} = \dot{Z'}\cdot\dot{I_2} = 10(10-j10) = 100-j100\) V。電源 \(\dot{E}\) を短絡した変更後の回路で、抵抗枝(いまや \(20\,\Omega\))から回路を見ると:節点の先にコイルとコンデンサの並列 \(= \dfrac{(j5)(-j10)}{j5-j10} = \dfrac{50}{-j5} = j10\)。よって補償電源が回すループのインピーダンスは \(20+j10\)。元の電流と逆向きに挿入するので:
\[ \Delta\dot{I_2} = -\frac{\dot{E_c}}{20+j10} = -\frac{(100-j100)(20-j10)}{500} = -\frac{1000-j3000}{500} = -2+j6\ \mathrm{A} \] \[ \dot{I_2'} = \dot{I_2}+\Delta\dot{I_2} = (10-j10)+(-2+j6) = 8-j4 = 8.94\angle{-26.57^\circ}\ \mathrm{A} \quad\text{(i)と一致。} \]演習No.3では、この \(\Delta\dot{I_2}\) に相当する電流を \(\dot{I_2''}\)、補償起電力を \(\dot{E_2}\) と呼んでいます。記号は違っても中身はこの手順そのものです。
- \(\dot{E}=20\angle0^\circ\) V に \(\dot{Z_1}=10\,\Omega\) が直列、その先の端子 a–b 間に \(\dot{Z_2}=-j10\,\Omega\)。a–b に負荷 \(\dot{Z_L}=10\,\Omega\) をつないだときの負荷電流をテブナンの定理で求めよ。
- 節点間に3枝並列:枝1 = \(\dot{E}=10\angle0^\circ\) V + \(10\,\Omega\)、枝2 = \(10\,\Omega\)、枝3 = \(-j10\,\Omega\)。節点間電圧をミルマンの定理で求めよ。
解答を見る
1. \(\dot{E_{ab}} = 20\cdot\dfrac{-j10}{10-j10} = 10-j10\) V。\(\dot{Z_{ab}} = 10/\!/(-j10) = 5-j5\ \Omega\)。\(\dot{I} = \dfrac{10-j10}{15-j5} = \dfrac{(10-j10)(15+j5)}{250} = 0.8-j0.4 = 0.89\angle{-26.57^\circ}\) A。
2. \(\dot{V} = \dfrac{10/10}{0.1+0.1+j0.1} = \dfrac{1}{0.2+j0.1} = \dfrac{0.2-j0.1}{0.05} = 4-j2 = 4.47\angle{-26.57^\circ}\) V。
交流電力
6.1瞬時電力から平均電力へ
電力の定義はいつでも \(p = vi\)(電圧×電流)です。交流では両方が振動しているので、まず正直に掛けてみます。電圧 \(v=\sqrt2V\sin(\omega t+\theta_v)\)、電流 \(i=\sqrt2I\sin(\omega t+\theta_i)\) とすると、積和公式 \(\sin A\sin B = \frac12\{\cos(A-B)-\cos(A+B)\}\) より
\[ p = 2VI\sin(\omega t+\theta_v)\sin(\omega t+\theta_i) = VI\cos(\theta_v-\theta_i) - VI\cos(2\omega t+\theta_v+\theta_i) \]第2項は倍の周波数で振動する項で、平均するとゼロ。残るのは第1項、時間によらない定数だけです。これが平均電力(有効電力)です。
\(V, I\) は実効値です(実効値でフェーザを書く約束が、ここで効いています)。\(\cos\theta\) を力率と呼びます。位相差が開くほど、同じ \(V\)・\(I\) でも実際に仕事をする電力は減ります。
6.2有効・無効・皮相電力と力率
- 有効電力 \(P = VI\cos\theta\) [W]:実際に消費される(熱や仕事になる)電力。
- 無効電力 \(Q = VI\sin\theta\) [var]:LやCとの間を往復するだけで消費されない電力。
- 皮相電力 \(S = VI\) [VA]:見かけの電力。\(S^2 = P^2+Q^2\) の関係(直角三角形)。
- 力率 \(\cos\theta = P/S\):皮相電力のうち、実際に仕事になる割合。
重要な物理的事実:電力を消費するのは抵抗だけです。理想のコイル・コンデンサでは電圧と電流の位相差が±90°、つまり \(\cos(\pm90^\circ)=0\) なので \(P=0\)。エネルギーを貯めては返しているだけです。したがって、抵抗 \(R\) に実効値 \(I\) が流れているなら、素直に
で計算できます。回路の全消費電力は「各抵抗の \(I^2R\) の合計」です。
6.3複素電力 S = V̇ Ī — なぜ共役を掛けるのか
P と Q をいちいち \(\cos\)・\(\sin\) で計算するのは面倒です。フェーザから一撃で出す道具が複素電力です。\(\dot{V} = V\angle\theta_v\)、\(\dot{I} = I\angle\theta_i\) とし、電流の共役 \(\bar{I} = I\angle(-\theta_i)\) を電圧に掛けてみます:
\[ \dot{V}\bar{I} = VI\angle(\theta_v-\theta_i) = VI\cos\theta + jVI\sin\theta = P + jQ \]実部が有効電力、虚部が無効電力。共役を掛ける理由は「角度を引き算して、電圧と電流の位相差 \(\theta\) だけを残すため」です。共役にせず \(\dot{V}\dot{I}\) と掛けると角度が \(\theta_v+\theta_i\) になり、位相差の情報が壊れます。
複素電力: \[ \dot{S} = \dot{V}\bar{I} = P + jQ,\qquad |\dot{S}| = S = VI \] この定義では、誘導性負荷(電流が遅れる)のとき \(Q>0\) になる。
共役を取るのは電流側です(この流儀が標準)。また「\(P = \mathrm{Re}(\dot{V}\bar{I})\)」を使えば、\(\cos\theta\) を経由せずに有効電力が出ます。No.7 は「\(\bar{I}\) を求めよ → \(\dot{S}=\dot{E}\bar{I}\) を求めよ」という誘導になっており、この定義をそのまま追う問題です。
6.4電力の保存 — 供給 = 消費の総和
エネルギー保存則により、電源が供給する有効電力は、各素子が消費する有効電力の総和に等しい(無効電力も同様に保存します)。これは強力な検算手段です。例題で確認します。
各抵抗の消費電力と電源の供給電力→ 演習No.6 対応
\(\dot{V}=100\angle0^\circ\) V の電源に、\(6\,\Omega\) の抵抗が直列。その先に \(\dot{Z_2}=8+j6\,\Omega\) と \(\dot{Z_3}=8-j6\,\Omega\) の並列。全電流 \(\dot{I_1}\)、分岐電流 \(\dot{I_2},\dot{I_3}\)、各部の消費電力と電源の供給電力を求め、保存を確認せよ。
合成インピーダンス:並列部は \(\dfrac{(8+j6)(8-j6)}{16} = \dfrac{64+36}{16} = 6.25\,\Omega\)(共役どうしの並列なので実数になる)。全体 \(\dot{Z} = 6+6.25 = 12.25\,\Omega\)。
電流:\(\dot{I_1} = 100/12.25 = 8.16\angle0^\circ\) A。並列部の電圧は \(\dot{V_p} = 8.16\times6.25 = 51.02\) V なので、
\[ \dot{I_2} = \frac{51.02}{8+j6} = \frac{51.02(8-j6)}{100} = 4.08-j3.06 = 5.10\angle{-36.87^\circ}\ \mathrm{A} \] \[ \dot{I_3} = \frac{51.02}{8-j6} = 4.08+j3.06 = 5.10\angle{36.87^\circ}\ \mathrm{A} \](検算:\(\dot{I_2}+\dot{I_3} = 8.16 = \dot{I_1}\)。OK)
消費電力(抵抗分だけが消費、6.2節):
\[ P_1 = |\dot{I_1}|^2\times6 = 8.163^2\times6 = 399.8\ \mathrm{W} \] \[ P_2 = |\dot{I_2}|^2\times8 = 5.102^2\times8 = 208.2\ \mathrm{W},\qquad P_3 = |\dot{I_3}|^2\times8 = 208.2\ \mathrm{W} \]合計 \(399.8+208.2+208.2 = 816.2\) W。
供給電力:電源から見た回路は \(12.25\,\Omega\)(実数)なので \(\theta=0\)、\(P = VI_1\cos0^\circ = 100\times8.163 = 816.3\) W。丸め誤差の範囲で一致——電力は保存しています。
6-5最大電力問題 — 可変コンデンサで R の電力を最大化する
No.7 の型です。「コイル \(L\) が直列に入った先に、可変コンデンサ \(C\) と抵抗 \(R\) の並列。\(C\) をどう選ぶと \(R\) の消費電力が最大になるか」。誘導に従って、電流→共役→複素電力→最大条件、の順で解きます。文字のまま進めるのがコツです。
複素電力から最大電力の条件を導く→ 演習No.7 対応
電源 \(\dot{E}=E\angle0^\circ\)(実効値 \(E\))、直列コイル \(L\)、その先に \(C\)(可変)と \(R\) の並列。(1) 電源電流 \(\dot{I}\)、(2) 複素電力 \(\dot{S}=\dot{E}\bar{I}\) と有効電力 \(P\)、(3) \(P\) を最大にする \(C\) と最大値を求めよ。
(1) 電流。並列部のインピーダンスは \(\dfrac{R\cdot\frac{1}{j\omega C}}{R+\frac{1}{j\omega C}} = \dfrac{R}{1+j\omega CR}\)。全体は
\[ \dot{Z} = j\omega L + \frac{R}{1+j\omega CR} = \frac{j\omega L(1+j\omega CR)+R}{1+j\omega CR} = \frac{R(1-\omega^2LC)+j\omega L}{1+j\omega CR} \] \[ \therefore\ \dot{I} = \frac{\dot{E}}{\dot{Z}} = \frac{E(1+j\omega CR)}{R(1-\omega^2LC)+j\omega L} \](2) 複素電力。共役は「全部の \(j\) の符号を反転」すればよいので、
\[ \bar{I} = \frac{E(1-j\omega CR)}{R(1-\omega^2LC)-j\omega L} \] \[ \dot{S} = \dot{E}\bar{I} = \frac{E^2(1-j\omega CR)}{R(1-\omega^2LC)-j\omega L} \]分母の共役を掛けて有理化し、実部を取り出します。分母は \(D = R^2(1-\omega^2LC)^2+\omega^2L^2\)(実数)になり、分子の実部は
\[ \mathrm{Re} = E^2\left[R(1-\omega^2LC) + \omega CR\cdot\omega L\right] = E^2R\left[1-\omega^2LC+\omega^2LC\right] = E^2R \]見事に \(C\) の項が実部の分子から消えます。よって
\[ P = \mathrm{Re}(\dot{S}) = \frac{E^2R}{R^2(1-\omega^2LC)^2+\omega^2L^2} \](3) 最大化。\(P\) の分子は定数なので、分母を最小にすればよい。分母の第1項 \(R^2(1-\omega^2LC)^2 \geq 0\) は \(C\) で動かせて、ゼロにできます:
\[ 1-\omega^2LC = 0 \quad\Longleftrightarrow\quad C = \frac{1}{\omega^2 L} \] \[ P_{\max} = \frac{E^2R}{\omega^2L^2} = \frac{E^2R}{X_L^2} \](この条件は並列共振の条件でもあります。)数値例:\(E=100\) V、\(R=20\,\Omega\)、\(L=50\) mH、\(f=50\) Hz なら、\(\omega = 314.16\)、\(X_L = 15.71\,\Omega\)、\(C = \dfrac{1}{314.16^2\times0.05} = 2.03\times10^{-4} = 203\) μF、\(P_{\max} = \dfrac{100^2\times20}{15.71^2} = 811\) W。
微分を使わず「2乗の項は0が最小」で片づけるのがきれいです。最大・最小と聞くと反射的に微分したくなりますが、まず平方完成・非負項の観察を疑ってください。
6.6力率改善 — コンデンサで無効電流を打ち消す
モーターのような誘導性負荷は電流が遅れ、力率が悪くなります。電力会社視点では、同じ \(P\) を送るのに大きな電流が必要になり損です。そこで負荷と並列にコンデンサを入れて、遅れの無効分を進みの電流で打ち消します。これが力率改善で、No.8 の型です。
力率を1にするコンデンサ容量→ 演習No.8 対応
\(\dot{E}=100\angle0^\circ\) V(\(f=50\) Hz)に、\(R=4\,\Omega\) とコイル \(X_L=3\,\Omega\) の直列負荷がつながる。(1) 負荷電流 \(\dot{I_L}\) と消費電力 \(P\)、力率を求めよ。(2) 電源から見た力率を1にするために負荷と並列に入れるコンデンサ \(C\) を求めよ。(3) ベクトル図を描け。
(1) \(\dot{Z_L} = 4+j3 = 5\angle36.87^\circ\)。
\[ \dot{I_L} = \frac{100}{4+j3} = \frac{100(4-j3)}{25} = 16-j12 = 20\angle{-36.87^\circ}\ \mathrm{A} \]力率 \(\cos36.87^\circ = 0.8\)(遅れ)。\(P = EI_L\cos\theta = 100\times20\times0.8 = 1600\) W。(検算:\(P=|\dot{I_L}|^2R = 400\times4=1600\) W。一致。)
(2) 電流の内訳を見ます。\(\dot{I_L} = 16-j12\):実部16 A が有効分、虚部 −12 A が遅れの無効分です。並列コンデンサの電流は \(\dot{I_C} = j\omega C\dot{E} = j\,\omega C\times100\)、純粋な進み(+j方向)です。全電流 \(\dot{I} = \dot{I_L}+\dot{I_C}\) の虚部が0になればよいので:
\[ \omega C\times100 = 12 \quad\Longrightarrow\quad \omega C = 0.12 \quad\Longrightarrow\quad C = \frac{0.12}{2\pi\times50} = 3.82\times10^{-4} = 382\ \mathrm{\mu F} \]このとき \(\dot{I} = 16\angle0^\circ\) A。電流の大きさは 20 A → 16 A に減りますが、\(P\) は変わりません(コンデンサは電力を消費しないので)。これが力率改善の御利益です。
なお、大きさの関係 \(|\dot{I_C}| = |\dot{I_L}|\sin\theta\)(\(12 = 20\times0.6\))や、無効電力から求める式 \(C = \dfrac{Q}{\omega E^2} = \dfrac{P\tan\theta}{\omega E^2} = \dfrac{1600\times0.75}{314.16\times100^2} = 382\) μF も同じ答えを与えます。どの筋でも解けるようにしておくと、問題の誘導がどれでも対応できます。
(3) ベクトル図:
6.73電圧計法 — 電圧計3つで電力を測る
位相差を直接測る道具がなくても、電圧計3つと既知の抵抗1本があれば負荷の消費電力を測れます。それが3電圧計法(No.9)です。原理は「フェーザの足し算は大きさの足し算ではない」(2.6節)を逆手に取ったもの——大きさのズレ具合に位相差の情報が入っているのです。
回路:電源 → 既知抵抗 \(R_0\) → 負荷 \(\dot{Z}\)。\(V_1\)=電源電圧、\(V_2\)=\(R_0\) の電圧、\(V_3\)=負荷の電圧(いずれも実効値=電圧計の読み)。
導出:電流 \(\dot{I}\) を基準(0°)に取ります。\(\dot{V_2} = R_0\dot{I}\) は電流と同相。\(\dot{V_3}\) は負荷の位相角 \(\theta\) だけ進むとします。KVL より \(\dot{V_1} = \dot{V_2}+\dot{V_3}\)。大きさの2乗を取ると(余弦定理そのものです):
\[ V_1^2 = |\dot{V_2}+\dot{V_3}|^2 = V_2^2 + V_3^2 + 2V_2V_3\cos\theta \]ここで負荷の消費電力は \(P = V_3I\cos\theta = V_3\cdot\dfrac{V_2}{R_0}\cos\theta\)。上の式から \(V_2V_3\cos\theta = \dfrac{V_1^2-V_2^2-V_3^2}{2}\) を代入して:
3電圧計法の数値確認→ 演習No.9 対応
\(E=100\) V、\(R_0=10\,\Omega\)、負荷 \(\dot{Z} = 30+j40\,\Omega\)。3つの電圧計の読み \(V_1,V_2,V_3\) を計算し、3電圧計法の式が負荷の消費電力を正しく与えることを確認せよ。
全インピーダンス \(= 10+30+j40 = 40+j40\)、大きさ \(40\sqrt2 = 56.57\,\Omega\)。電流の大きさ \(I = 100/56.57 = 1.768\) A。電流を基準 \(\dot{I}=1.768\angle0^\circ\) に取ると:
\[ \dot{V_2} = 10\dot{I} = 17.68\angle0^\circ,\qquad \dot{V_3} = \dot{I}\times(30+j40) = 1.768\times50\angle53.13^\circ = 88.39\angle53.13^\circ \] \[ \dot{V_1} = \dot{V_2}+\dot{V_3} = 17.68 + (53.03+j70.71) = 70.71+j70.71 = 100\angle45^\circ \](\(V_1 = 100\) V:電源電圧と一致。当然ですが、気持ちのよい検算です。)ここで大きさだけ見ると \(17.68 + 88.39 = 106.07 \neq 100\)。足しても電源電圧にならない、そのズレが \(\cos\theta\) を教えてくれるわけです。
直接計算の電力:\(P = I^2\times30 = 1.768^2\times30 = 93.75\) W。
3電圧計法:
\[ P = \frac{100^2 - 17.68^2 - 88.39^2}{2\times10} = \frac{10000-312.5-7812.5}{20} = \frac{1875}{20} = 93.75\ \mathrm{W} \]一致しました。
- 負荷 \(\dot{Z}=8+j6\,\Omega\) に実効値 \(5\) A が流れている。\(P\)、\(Q\)、\(S\)、力率を求めよ。
- \(\dot{V}=100\angle30^\circ\) V、\(\dot{I}=5\angle{-6.87^\circ}\) A のとき、複素電力 \(\dot{S}=\dot{V}\bar{I}\) を計算し、\(P\) と \(Q\) を読み取れ。
- 例題6-3で、力率を1ではなく0.95(遅れ)まで改善する場合に必要な \(\omega C\) を求めよ(ヒント:改善後の電流の偏角が \(-\cos^{-1}0.95 = -18.19^\circ\) になればよい)。
解答を見る
1. \(|\dot{Z}|=10\)、\(\cos\theta=0.8\)。\(P=I^2R=25\times8=200\) W、\(Q=I^2X=25\times6=150\) var、\(S=I^2|Z|=250\) VA(\(\sqrt{200^2+150^2}=250\) ✓)、力率0.8。
2. \(\dot{S} = 100\angle30^\circ\times5\angle{+6.87^\circ} = 500\angle36.87^\circ = 400+j300\)。\(P=400\) W、\(Q=300\) var(遅れ・誘導性)。
3. 有効分16 Aは不変。\(\tan18.19^\circ=0.329\) より虚部は \(-16\times0.329=-5.26\) A まで残してよい。打ち消す量は \(12-5.26=6.74\) A なので \(\omega C = 6.74/100 = 0.0674\)(\(C=214\) μF)。力率1にするより小さいコンデンサで済む。
磁気結合回路
7.1相互インダクタンス M
2つのコイルが近くにあると、片方の電流が作る磁束がもう片方を貫きます。すると、コイル1の電流変化がコイル2に電圧を誘導します(電磁誘導)。この「もらい誘導」の強さが相互インダクタンス \(M\) [H] です。自分の電流変化による誘導(自己インダクタンス \(L\))に、相手からの項が加わる形になります:
\[ v_1 = L_1\frac{di_1}{dt} \pm M\frac{di_2}{dt},\qquad v_2 = L_2\frac{di_2}{dt} \pm M\frac{di_1}{dt} \]フェーザで書けば(2.5節)、\(d/dt\) が \(j\omega\) になるだけです:
問題は \(\pm\) の符号です。これは巻き方の向きで決まり、回路図ではドット(●)で指定されます。
7.2ドット記法 — 符号を一発で決めるルール
両方の電流がともにドット側の端子から流れ込む(またはともに流れ出す)向きに取ってあるなら、M の符号は +。片方だけドットから入り、もう片方はドットから出る向きなら −。
ドットは「磁束の向きが揃う端子」の印です。両方ともドットから流し込めば磁束が強め合う(+M)、逆なら弱め合う(−M)。式を立てる前に、自分が決めた電流の矢印がドットに対してどっち向きかを毎回確認してください。No.10 の図もドットが打ってあるので、この確認が第一手です。
7.3T形等価回路 — 結合を「ただの回路」に変換する
結合回路の連立式は解けますが、毎回連立を解くのは重い。そこで、M を含む回路を、M を含まない普通のコイル3つの回路に描き換えるテクニックがあります。それがT形等価回路です。導出は式変形だけでできます。基本式(+Mの場合)を、無理やり \((\dot{I_1}+\dot{I_2})\) が見える形に変形します:
\[ \dot{V_1} = j\omega L_1\dot{I_1} + j\omega M\dot{I_2} = j\omega(L_1-M)\dot{I_1} + j\omega M(\dot{I_1}+\dot{I_2}) \] \[ \dot{V_2} = j\omega L_2\dot{I_2} + j\omega M\dot{I_1} = j\omega(L_2-M)\dot{I_2} + j\omega M(\dot{I_1}+\dot{I_2}) \]この2式をよく見ると、こう読めます:「電流 \(\dot{I_1}\) はまずコイル \((L_1-M)\) を通り、電流 \(\dot{I_2}\) はコイル \((L_2-M)\) を通り、合流した \((\dot{I_1}+\dot{I_2})\) が共通のコイル \(M\) を通る」。つまり次のT字型の回路と、端子から見て完全に同じ振る舞いをします。
T形等価が使えるのは、2つのコイルが一方の端子どうしで共通の節点につながっている(3端子接続になっている)ときです。No.10 の回路は両コイルの下側が共通線なのでOK。また、ドットの向きが逆の場合は上の \(M\) をすべて \(-M\) に置き換えます(枝の値が \(L_1+M,\ L_2+M,\ -M\) になる)。「\(-M\) のコイル」は物理的には作れませんが、計算上は普通に扱ってかまいません。
7.4結合係数 k
結合の強さの無次元指標が結合係数です:
\[ k = \frac{M}{\sqrt{L_1L_2}} \qquad (0 \le k \le 1) \]\(k=1\)(\(M = \sqrt{L_1L_2}\)、すなわち \(L_1L_2 = M^2\))は漏れ磁束ゼロの完全結合(密結合)で、理想変圧器(8章)に一歩近づいた状態です。「\(L_1L_2=M^2\) という条件式を見たら完全結合のことだ」と反応できるようにしておいてください。
7.5例題:結合回路のインピーダンス
二次側に抵抗がつながった結合回路→ 演習No.10 の基礎
\(\omega=1000\) rad/s、\(L_1=L_2=10\) mH、\(M=5\) mH。二次コイルには抵抗 \(R=10\,\Omega\) が閉路として接続されている。一次側端子から見たインピーダンス \(\dot{Z}\) を求めよ。
基本式で連立を立てます(\(\dot{I_2}\) は二次閉路を回る電流、ドットは +M の配置とする)。一次:\(\dot{V_1} = j\omega L_1\dot{I_1} + j\omega M\dot{I_2}\)。二次はKVLで一周ゼロ:
\[ 0 = j\omega M\dot{I_1} + (j\omega L_2 + R)\dot{I_2} \quad\Longrightarrow\quad \dot{I_2} = -\frac{j\omega M}{R+j\omega L_2}\dot{I_1} \]これを一次の式に代入:
\[ \dot{V_1} = \left[j\omega L_1 + \frac{\omega^2M^2}{R+j\omega L_2}\right]\dot{I_1} \quad\Longrightarrow\quad \dot{Z} = j\omega L_1 + \frac{\omega^2M^2}{R+j\omega L_2} \]第2項が「二次側の存在が一次側に映り込んだ」反映インピーダンスです。数値を入れると \(\omega L_1 = \omega L_2 = 10\)、\(\omega M = 5\)、\(\omega^2M^2 = 25\):
\[ \dot{Z} = j10 + \frac{25}{10+j10} = j10 + \frac{25(10-j10)}{200} = j10 + 1.25 - j1.25 = 1.25+j8.75\ \Omega \]面白いのは、二次側の \(R\)(実部)が一次側にも実部 \(1.25\,\Omega\) として現れたことです。一次側から流し込んだ電力の一部が、磁気結合ごしに \(R\) で消費されている、という物理がそのまま式に出ています。
7.6「R によらず一定」型の問題の考え方
No.10(3) のような「出力が \(R\) の値によらず一定になる条件を求めよ」という問いは、結合回路に限らず頻出の型です。攻め方を一般論として身につけましょう。求めたい量(例えば出力電圧 \(\dot{V}\))を \(R\) を含んだ式で書き下すと、線形回路では必ず
\[ \dot{V} = \frac{\alpha R + \beta}{\gamma R + \delta}\ \dot{E} \qquad (\alpha,\beta,\gamma,\delta\ \text{は}\ R\ \text{を含まない複素定数}) \]という\(R\) の一次分数式になります。これが \(R\) によらないための条件は:
\(\dfrac{\alpha R+\beta}{\gamma R+\delta}\) が \(R\) の値によらず一定 \(\iff\) \(\alpha\delta = \beta\gamma\)(分子と分母が比例)。特に \(\beta = \delta = 0\) や「\(R\) の係数比 \(=\) 定数項比」の形で現れることが多い。
実戦手順:(1) T形等価に描き換える → (2) 分圧を2回使って \(\dot{V}\) を \(R\) の式で書く → (3) 分子・分母を \(R\) について整理 → (4) 比例条件を課す。出てきた条件式は、たいてい \(L_1, L_2, M\) の間のきれいな関係(7.4節の用語で言い換えられる形)になります。
この手順は No.10 にそのまま適用できます。(2) の分圧で符号や分母を丁寧に——ここまでの章の技術だけで最後まで到達できるはずです。
- \(L_1=30\) mH、\(L_2=20\) mH、\(M=10\) mH のT形等価回路の3枝の値を答えよ(+Mの配置)。
- 上の結合の結合係数 \(k\) を求めよ。
- 例題7-1で \(R\to\infty\)(二次開放)のときの \(\dot{Z}\) はどうなるか。式から読み取れ。
解答を見る
1. \(L_1-M = 20\) mH、\(L_2-M = 10\) mH、共通枝 \(M = 10\) mH。
2. \(k = 10/\sqrt{30\times20} = 10/24.49 = 0.41\)。
3. 反映インピーダンス項 \(\omega^2M^2/(R+j\omega L_2) \to 0\)。よって \(\dot{Z} \to j\omega L_1\):二次を開放すれば、一次はただのコイルに見える。
理想変圧器
8.1理想変圧器の2つの式
理想変圧器は、7章の結合回路の理想化(完全結合 \(k=1\)、コイルのインダクタンス無限大、損失ゼロ)です。巻数比 \(1:n\)(一次:二次)のとき、性質は次の2式に尽きます。
電圧は巻数に比例(1巻きあたりの誘導電圧が共通の磁束で決まるため)、電流は巻数に反比例(起磁力のつり合い)。2式を掛け合わせると
\[ \dot{V_2}\bar{I_2} = n\dot{V_1}\cdot\frac{\bar{I_1}}{n} = \dot{V_1}\bar{I_1} \]つまり複素電力は一次側と二次側で等しい。理想変圧器は電力を消費も生成もせず、電圧と電流の「比率」だけを組み替える装置です。
8.2インピーダンス変換 — n² の法則
二次側に負荷 \(\dot{Z_2}\) をつなぐと、一次側からはどう見えるでしょうか。定義どおり計算します:
\[ \dot{Z_1}' = \frac{\dot{V_1}}{\dot{I_1}} = \frac{\dot{V_2}/n}{n\dot{I_2}} = \frac{1}{n^2}\cdot\frac{\dot{V_2}}{\dot{I_2}} = \frac{\dot{Z_2}}{n^2} \]この式のおかげで、変圧器入りの回路は「二次側を \(n^2\) で割って一次側に持ってくる」だけの、変圧器なしの回路に描き換えられます。解く手順は毎回これです:
- 二次側の合成インピーダンス \(\dot{Z_2}\) を求める。
- \(\dot{Z_1}' = \dot{Z_2}/n^2\) に変換し、一次側だけの等価回路を描く。
- 等価回路で一次電流 \(\dot{I_1}\)、一次端子電圧 \(\dot{V_1}\) を求める。
- 必要なら \(\dot{V_2}=n\dot{V_1}\)、\(\dot{I_2}=\dot{I_1}/n\) で二次側に戻す。
8.3例題:フルコース
変圧器回路をひととおり解く→ 演習No.11 対応
\(\dot{E}=100\angle0^\circ\) V(\(\omega=400\) rad/s)に抵抗 \(R_1=1\,\Omega\) が直列、その先に巻数比 \(1:2\) の理想変圧器。二次側には \(R_2=12\,\Omega\) とコイル \(L=40\) mH の直列負荷。(1) 二次側負荷 \(\dot{Z_2}\)、(2) 一次換算 \(\dot{Z_1}'\) と回路全体のインピーダンス、(3) \(\dot{I_1}\)、(4) \(\dot{V_1}, \dot{V_2}, \dot{I_2}\)、(5) 各抵抗の消費電力と電源の供給電力、を求めよ。
(1) \(\omega L = 400\times0.04 = 16\,\Omega\) なので \(\dot{Z_2} = 12+j16\,\Omega\)。
(2) \(n=2\) だから \(\dot{Z_1}' = \dfrac{12+j16}{4} = 3+j4\,\Omega\)。全体は \(\dot{Z} = R_1 + \dot{Z_1}' = 4+j4 = 5.66\angle45^\circ\,\Omega\)。
(3) \(\dot{I_1} = \dfrac{100}{4+j4} = \dfrac{100(4-j4)}{32} = 12.5-j12.5 = 17.68\angle{-45^\circ}\) A。
(4) 一次端子電圧(変圧器の一次側にかかる電圧)は \(\dot{V_1} = \dot{I_1}\dot{Z_1}' = (12.5-j12.5)(3+j4) = 87.5+j12.5 = 88.39\angle8.13^\circ\) V。よって
\[ \dot{V_2} = 2\dot{V_1} = 176.78\angle8.13^\circ\ \mathrm{V},\qquad \dot{I_2} = \frac{\dot{I_1}}{2} = 8.84\angle{-45^\circ}\ \mathrm{A} \](検算:\(\dot{V_2}/\dot{I_2} = \dfrac{176.78}{8.84}\angle(8.13+45)^\circ = 20\angle53.13^\circ = 12+j16 = \dot{Z_2}\)。二次側のオームの法則が成立。)
(5) \(P_1 = |\dot{I_1}|^2R_1 = 17.68^2\times1 = 312.5\) W。\(P_2 = |\dot{I_2}|^2R_2 = 8.84^2\times12 = 937.5\) W。合計 \(1250\) W。電源の供給は \(P = E\,|\dot{I_1}|\cos45^\circ = 100\times17.68\times0.7071 = 1250\) W。変圧器を挟んでも電力は保存——8.1節の「複素電力不変」が数値でも確認できました。
巻数比の向きに注意。「1:n」の n は二次側です。一次換算は「\(n^2\) で割る」、逆に一次の量を二次に持っていくときは「\(n^2\) を掛ける」。どちらか迷ったら、「巻数が多い側は電圧が高い=インピーダンスも高く見える」という物理で確認してください(\(Z=V/I\) で、\(V\) は \(n\) 倍・\(I\) は \(1/n\) 倍だから \(Z\) は \(n^2\) 倍)。
- 巻数比 \(1:3\) の理想変圧器の二次側に \(90\,\Omega\) の抵抗。一次側から見たインピーダンスは?
- 例題8-1で、力率(電源から見た \(\cos\theta\))を答えよ。
- \(8\,\Omega\) のスピーカーを、出力インピーダンス \(800\,\Omega\) のアンプに整合させたい。必要な巻数比 \(n_1:n_2\) は?
解答を見る
1. \(90/9 = 10\,\Omega\)。
2. \(\dot{Z} = 4+j4\) の角度は \(45^\circ\) なので \(\cos45^\circ = 0.707\)(遅れ)。
3. \(Z_1'/Z_2 = (n_1/n_2)^2 = 800/8 = 100\) より \(n_1:n_2 = 10:1\)。
演習No.1〜11 攻略ガイド
手順:(1)の表は3.5節の対照表の知識で全マス埋まる。最終行は \(\dot{I}=\dot{E}/\dot{Z}\) を極形式の割り算で。(2)は例題4-1・4-2と同じ流れ:並列は和分の積→有理化、直列は足すだけ。最後にフェーザ表示へ変換。
手順:①は \(j\omega L\)、\(R\)、\(-j/(\omega C)\) を計算するだけ(mH・μF の換算に注意)。②以降は例題5-1と完全に同じ構造:E₂短絡→直並列+分流、E₁短絡→同様、最後に複素数のまま加算。各段階と最終でKCL(\(\dot{I_1}+\dot{I_2}=\dot{I_3}\))検算。
手順:前半は合成→全電流→分流(例題5-4bの前半と同じ)。後半は補償の定理:挿入する \(\dot{Z'}\) と元の枝電流から補償起電力 \(\dot{E_2}=\dot{Z'}\dot{I_2}\) を作り、電源を殺した回路で変化分 \(\dot{I_2''}\) を計算、\(\dot{I_2'}=\dot{I_2}+\dot{I_2''}\)。
手順:例題5-2の4手そのまま。負荷を外す→開放電圧 \(\dot{E_{ab}}\)(Cの分圧)→電源短絡で \(\dot{Z_{ab}}\)(CとR+Lの並列)→\(\dot{I}=\dot{E_{ab}}/(\dot{Z_{ab}}+\dot{Z})\)。
手順:例題5-3と同じ。各枝の \(\dot{E}/\dot{Z}\)(電源のない枝は0)と \(1/\dot{Z}\) を全部並べて公式へ。出た \(\dot{V}\) を負荷インピーダンスで割れば負荷電流。No.4と同じ回路なので、テブナンの答えと一致するか突き合わせると最強の検算になる。
手順:例題6-1と同じ流れ。合成→全電流→並列部電圧→分岐電流→各抵抗の \(|\dot{I}|^2R\) →合計が電源の \(VI\cos\theta\) と一致することを確認。
手順:例題6-2の文字計算をそのまま実行。①電流(並列→全体→\(\dot{E}/\dot{Z}\))②共役(jの符号を全部反転)③\(\dot{S}=\dot{E}\bar{I}\) を有理化して実部=P ④「2乗の項=0」で最大条件、数値代入。
手順:例題6-3と同じ。負荷電流→実部・虚部に分解→並列Cの進み電流で虚部を打ち消す条件から \(C\)。ベクトル図は「\(\dot{I_L}\) の矢の先から \(\dot{I_C}\) を上向きに継ぎ足すと実軸上の \(\dot{I}\) に届く」形。
手順:例題6-4と同じ。電流を基準フェーザに取り、\(\dot{V_2}=R_0\dot{I}\)、\(\dot{V_3}=\dot{Z}\dot{I}\)、\(\dot{V_1}=\dot{V_2}+\dot{V_3}\)。導出問題は余弦定理(または \(|\dot{V_2}+\dot{V_3}|^2\) の展開)から \(P=(V_1^2-V_2^2-V_3^2)/2R_0\) へ。
手順:ドットの向きを確認して符号を決める→T形等価(7.3節)に描き換える→分圧2回で出力電圧を \(R\) の式で書く→「\(R\) によらない」条件は7.6節の比例条件で。条件式は \(L_1,L_2,M\) のきれいな関係になり、そのときの電圧も簡潔な形に落ちる。
手順:例題8-1のフルコースそのまま。二次側合成→\(n^2\) で一次換算→一次回路で \(\dot{I_1}\)→変換則で \(\dot{V_2},\dot{I_2}\)→電力保存で締め。
全演習に共通する型はこうです:単位換算 → インピーダンス化 → (定理 or 直並列) → 有理化 → フェーザ表示 → 検算(KCL/電力保存/極形式)。この教材の例題を「見ないで再現できる」状態まで持っていけば、プリントは数値が違うだけの同じ問題に見えるはずです。健闘を祈ります。
付録 — 数表と早見表
A.1頻出の直角三角形
| 辺の比 | 角度 | よく出る複素数の例 |
|---|---|---|
| 3 : 4 : 5 | 36.87° / 53.13° | \(3+j4 = 5\angle53.13^\circ\)、\(8-j6 = 10\angle{-36.87^\circ}\) |
| 1 : 1 : √2 | 45° | \(1+j = \sqrt2\angle45^\circ\)、\(10-j10 = 14.14\angle{-45^\circ}\) |
| 1 : √3 : 2 | 30° / 60° | \(\sqrt3+j = 2\angle30^\circ\) |
演習の数値は、この3種類(特に3:4:5)になるよう仕組まれていることが多いです。\(\sqrt{a^2+b^2}\) を計算する前に「これは3:4:5では?」と疑うと速い。
A.2逆正接の早見表
| b/a | tan⁻¹ | b/a | tan⁻¹ |
|---|---|---|---|
| 1/3 | 18.43° | 2 | 63.43° |
| 1/2 | 26.57° | 3 | 71.57° |
| 3/4 | 36.87° | 4 | 75.96° |
| 1 | 45° | 5 | 78.69° |
| 4/3 | 53.13° | √3 | 60° |
象限補正を忘れずに(1.5節):実部が負なら ±180° の補正。例:\(-2-j4\) → 電卓は 63.43° → 正しくは −116.57°。
A.3単位・記号一覧
| 記号 | 読み | 意味 | 単位 |
|---|---|---|---|
| ω | オメガ | 角周波数(\(=2\pi f\)) | rad/s |
| θ, φ | シータ、ファイ | 位相角 | rad または ° |
| Ẋ | ドット | 複素数(フェーザ)であることの印 | — |
| X̄(または X*) | バー | 共役複素数 | — |
| Z, X | — | インピーダンス、リアクタンス | Ω |
| Y | — | アドミタンス(\(=1/\dot{Z}\)) | S(ジーメンス) |
| P / Q / S | — | 有効/無効/皮相電力 | W / var / VA |
| M, k | — | 相互インダクタンス、結合係数 | H、無次元 |
A.4本文の重要公式インデックス
- 有理化:\(\frac{1}{a+jb} = \frac{a-jb}{a^2+b^2}\) — 1.3節
- 極形式の乗除:大きさは掛け・割り、角度は足し・引き — 1.6節
- \(d/dt \leftrightarrow j\omega\) — 2.5節
- 素子:\(R\)、\(j\omega L\)、\(1/(j\omega C)=-j/(\omega C)\) — 3章
- 和分の積・分圧・分流 — 4.1〜4.2節
- テブナン \(\dot{I}=\dot{E_{ab}}/(\dot{Z_{ab}}+\dot{Z})\) — 5.2節/ミルマン — 5.3節/補償 \(\Delta\dot{E}=\Delta\dot{Z}\dot{I}\) — 5.4節
- \(P=VI\cos\theta\)、\(\dot{S}=\dot{V}\bar{I}=P+jQ\) — 6.1〜6.3節
- 3電圧計法 \(P=(V_1^2-V_2^2-V_3^2)/2R_0\) — 6.7節
- T形等価:\(L_1-M,\ L_2-M,\ M\) — 7.3節/結合係数 \(k=M/\sqrt{L_1L_2}\) — 7.4節
- 理想変圧器:\(\dot{V_2}=n\dot{V_1}\)、\(\dot{I_2}=\dot{I_1}/n\)、\(\dot{Z_1}'=\dot{Z_2}/n^2\) — 8章